推薦状

 

小学校に入学してまだ間もない頃、田村彩恵さんが没頭した学習は「地図」でした。

 

地図なら何時間でも見ていられました。地形図の美しさに堪能し、平野から川へ、山から田畑へ、果樹園から学校へ。さらに、峠、港、運河へと、幾種類もの地図記号を辿っているうちに、人々の営みも識ってゆきました。

やがては、地図を回したり、逆さにしたりしても見るようになりました。地図の右端で小さいサツマイモのように転がっている日本は、アイスランドを中心にした場所から見ると、すっかり埋もれてしまっていることに気づき、それは、驚いたようでした。

 

これまで見ていた、日本列島を中心に置いた地図は、さまざまな方向から眺めた世界地図のたった一枚に過ぎないことを知ると『英語をやりたいの』だと言うようになっていました。

自分自身で気づきを得た「逆さ地図の世界観」は、彩恵さんを揺さぶり衝撃を与えるものとなりました。

 

身体を打たれるような衝撃を受けるには、資質が要るのだと、私は彩恵さんとの学習を通して、改めて識りました。その資質は、彼女自身を貪欲に突き動かし続けてきました。それが、アメリカ留学に続き、今回のポーランド留学の途を拓きました。

 

つい先頃、彩恵さんと学習したものに『戦争記念碑は物語る』の書評があります。日本経済新聞にありましたこの記事は、読書の紙面「あとがきのあと」に京都大学の佐藤卓己教授が評していたものです。

政治学を学ぶ覚悟を決めた、彩恵さんのポーランド留学は『戦争の敗者が「平和の勝者」になる可能性さえ探って』いけるものになるのではないかと思います。

 

 

『』は日本経済新聞2022319 読書紙面「あとがきのあと」より引用

『戦争記念碑は物語る』キース・ロウ著

〈評〉京都大学教授 佐藤 卓己

 

この推薦状は、ポーランド大使館に提出したものです。